資料No. 06-1
報告書タイトル 新時代の景観・デザイン手法のノウハウの確立と普及
委員会名 景観デザイン手法研究委員会
委員長名 榊原和彦(大阪産業大学)
活動期間 平成15年4月〜平成18年3月
発行年 平成18年8月1日

報告書目次

序にかえて−景観デザイン研究委員会の経緯

第1編 研究報告

第1章 公共事業の今後のあり方と景観・デザインの動向

1.序論
 1.1 はじめに
 1.2 公共事業の景観づくりの動向と課題
 1.3 望まれる公共事業と景観
 1.4 おわりに
2.公共空間のデザイン(道路、河川など)に関する状況と課題
 2.1. 公共空間デザインの現状
 2.2. 目的
 2.3. 行政における公共空間デザインへの取組み
 2.4. 景観まちづくりについて
 2.5. 公共空間の景観に関する課題
 2.6. 公共空間のデザインの課題と対応のまとめ
3.景観アセスメントに関わる状況と課題
 3.1. 「美しい国づくり政策大綱」の取り組み
 3.2. 景観アセスメントの現状
 3.3. 「景観アセスメント」の課題と対応
4.景観づくりの制度に関わる状況と課題
 4.1. 景観づくりにおける特に制度面概要
 4.2. 関連法施行状況
 4.3. この10年間での制度面での主な働き
 4.4. 景観づくりにおける特に制度面での問題点抽出

第2章 自然共生と景観デザイン

1.住民の意見を反映した景観形成事例
  〜「みちカフェ計画地の里山再生」と「不動坂 の歩道整備」
 1.1. 研究概要
 1.2. 住民参加・協働事例の振り返り
 1.3. 事例調査を踏まえた研究テーマについての考察
2.河川における植生景観
 2.1. 検討の背景
 2.2. 河川本来の植生の基本的な構成
 2.3. 河川植生景観の現状における問題点
 2.4. 河川植生の景観評価
 2.5. 河川植生景観形成における課題と対策
 2.6. まとめ

第3章 景観法に伴う景観行政・景観業務の新動向

1.景観法以降の行政の動向
 1.1 はじめに
 1.2 景観法を取り巻く行政について
 1.3 景観法以降の各行政の対応
 1.4 まとめ
2.景観形成事業推進費の創設と課題
 2.1. はじめに
 2.2. 景観形成事業推進費に係る状況
 2.3. 景観形成事業推進費に係る課題
 2.4. まとめ
3.景観形成事業促進のための既存事業の活用
 3.1. 景観形成事業推進費と既存補助事業の関係
 3.2. 既存補助事業の抽出
 3.3. 景観形成と関連性の深い既存補助事業
 3.4. 補助事業の詳細情報
4.景観施策の促進に伴うまちづくりに求められる建設コンサルタントの役割
 4.1. はじめに
 4.2. 景観緑三法の施行によって
 4.3. 建設コンサルタントの役割
 4.4. まとめ
5.景観施策の促進に伴う観光振興における景観整備
 4.1. はじめに
 4.2. 観光政策
 4.3. 国土交通省における観光施策における景観整備
 4.4. 建設コンサルタントの役割

第2編 トーク・ミーティング記録

 第1回 これからの道路整備に求められる新たな視点と課題
 第2回 まちづくり・都市づくりの新たな動向−景観に着目して
 第3回 どうする社会資本整備
 第4回 橋梁デザインの地域特性
 第5回 社会資本整備の課題と展望
 第6回 美しい国づくり政策大綱について
 第7回 屋上緑化都市−なんばパークス
 第8回 景色を見直す
 第9回 京都の景観と土木技術
 第10回 新たな土木景観デザインの可能性と表現にむけて
 第11回 土木史と土木遺産の保存・活用

報告書全体概要

序にかえて−景観デザイン研究委員会の経緯

 景観デザイン手法研究委員会は、「新時代の景観・デザイン手法のノウハウの確立と普及」を研究課題として、委員21名(内、外来委員3名)をもって2003年4月に発足し、以来3年にわたって研究活動を続けてまいりました。
 研究委員会の当初の目的は、以下に掲げるものでした。
 『昨今の社会・経済情勢の変化や価値観の多様化はめまぐるしく、これに対応してコンサルタント業務のあり方を見直すことは、建設コンサルタンツにとって、緊要な課題である。社会潮流に対応した具体的な課題として、少子高齢化への対応、ユニバーサルデザイン、循環型社会の形成、公共事業の維持管理・コスト縮減、住民参加、環境の保全などが挙げられる。これらは、さし迫って必要とされる社会ニーズであり、社会基盤施設整備、都市整備の中で的確な対応策をとるとともに、その景観デザインにも反映させることが必要である。本委員会は、こうした課題を掘り起こし、解決への方向性を指し示すとともに、実践的に役立つ技術的ノウハウを研究し、その成果をコンサルタント業務にフィードバックすることを目的とする』
 この目的を達成するために、以下の4つのサブテーマを設定しました。
 1.「新時代の公共事業における景観デザイン」 :新時代の社会・経済情勢(少子高齢化、成熟社会化、低成長経済、環境問題・安全・防災等への意識の高まり、省資源・省エネルギーへの要請、生活の高質化・・・・・・)は、公共事業やまちづくりの展開に対しても、環境負荷低減、維持管理重視、ユニバーサリゼーション、住民参加等々これまでと異なる対応を要請する。そうした新時代の公共事業における景観デザインについて研究する。
 2.「環境共生と景観デザイン」 :地球環境や自然環境との共生を目指す土木事業やまちづくりにおける景観デザインについて研究する。
 3.「住民参加と景観デザイン」 :地域住民が参加する事業が増加している状況を踏まえ、景観デザインに対する住民等の意見を反映させつつ、円滑に業務を遂行する手法について研究する。
 4.「コスト縮減時代の景観デザイン」 :”景観と言えばお金がつく時代”は終わった言える。しかし、後世に残る社会基盤施設を計画・設計するうえで、景観を無視することはできない。そこで、コスト重視の制約条件の中での、最前の景観デザインについて研究する。

 こうして、研究委員会を発足したのですが、発足後まもなく大きな情勢の変化が生じました。2003年7月に国土交通省が「美しい国づくり政策大綱」を公表したのです。その後、2004年6月に至って「景観緑三法」が成立し、2005年6月に全面施行されました。近畿地方整備局も、「美しい近畿へのみちしるべ−近畿の景観宣言−」を2004年6月に発表しました。これは、景観を巡る大きな変化であり、研究内容の方向性や目標もこれらに対応して変わることになって、以下に述べるように、研究期間の第1年目に行うことにしていた「トーク・ミーティング」の内容や研究の最終的なサブ・テーマおよび分科会構成にも変更が加えられました。

 トーク・ミーティングは、研究委員会の会合に、行政担当者・識者・専門家等をお招きして、4研究テーマのいずれかに関わる「現状」「問題点・課題」「背景・前提などの諸条件」「考え方」「方策・施策」等について、話題提供(トーク)をいただき、それについてディスカッションをするというものでした。その意図は、トークおよびディスカッションの内容から「何が問題であるのか」「コンサルタントに何が求められているか」「どのように対処・解決すればよいか」「土木デザイン・景観デザインの問題として、どう考え、どうすべきか」等々についての貴重な情報を得ることにあり、次年度以降における詳細(個別)研究テーマ設定の参考にすることも期待しました。
 第1回(2003年6月26日開催)〜第11回(2004年7月26日開催)まで1年間11回にわたって開催しましたが、以下、順不同ですが、講師と題目について簡単にご紹介します。

行政側の考え方を知るために、国土交通省から3名、京都市から1名をお招きしました。
○国土交通省の最前線である(国道)事務所に関わるお話をお伺いするために、八木茂樹氏:近畿地方整備局浪速国道事務所長、題目 「これからの道路整備に求められる新たな視点と課題」
○国土交通省ならびに近畿地方整備局の考え方・方向性をお伺いするために、西澤賢太郎氏:近畿地方整備局企画部企画課長、題目 「社会資本整備の課題と展望」
○「美しい国づくり政策大綱」および成立前の景観法についてお伺いするために、小川博之氏:近畿地方整備局企画部広域計画課長、題目 「美しい国づくり政策大綱について」
○京都市の景観行政と土木を中心とするお話をお伺いするために、福島信夫氏:京都市総合企画局プロジェクト推進室課長、題目 「京都の景観と土木技術」
公共事業についての深く広いご経験を有する方をお1方お招きしました。
○ご経験にもとづいて自由な立場から社会資本について論じていただくために、平峯悠氏:鹿島建設関西支店顧問・NPO法人地域デザイン研究会理事長、題目 「どうする社会資本整備」
景観についての基本的考え方を知るために、お2人の学識経験者をお招きしました。
○景観まちづくりの視点からのお話をお伺いするために、鳴海邦碩氏:大阪大学大学院教授、題目 「まちづくり・都市づくりの新たな動向−景観に着目して−」
○景観の概念・見方などに関わるお話をお伺いするために、樋口忠彦氏:京都大学大学院教授、題目 「景色を見直す」
具体のデザインに関わるお話をお伺いするために、お3方をお招きしました。
○土木の華とも言える橋梁のデザインについてのお話をお伺いするために、松村博氏:大阪市都市工学情報センター理事長、題目 「橋梁デザインの地域特性」
○話題の、緑に満ちた新しい建築の見学会を行い、お話をお伺いするために、三谷幸司氏:(株)大林組本店建築設計部総括部長、題目 「屋上緑化都市−なんばパークス−」
○土木とランドスケープ・デザインに関わるお話をお伺いするために、佐々木葉二氏:鳳コンサルタント所長・京都造形芸術大学教授、題目 「新たな土木景観デザインの可能性と表現にむけて」
過去の公共事業にも目を向けて、お1人をお招きしました。
○土木遺産についてのお話をお伺いするために、神吉和夫氏:神戸大学助手、題目 「土木史と土木遺産の保存・活用」

 いずれも、知識の地平を切り開かれる思いのする素晴らしいお話ばかりで、トーク・ミーティングを行ったことは、大成功であったと考えております。

 研究委員会におけるサブ・テーマおよび分科会構成は、最終的には、次に示すようなものとなりました。
 1.全体テーマ: 「新時代の社会資本形成と景観・デザイン」
 2.第1分科会(分科会委員長:筆者 榊原和彦・大阪産業大学教授)
  テーマ: 公共事業の今後のあり方と景観・デザインの動向
  内容: 公共事業をめぐる社会・経済・財政状況や政策あ大きく変わろうとしている。このような状況の中で、今後の公共事業がどういう課題を抱えているか、景観・デザインが公共事業の根拠・目的・今後のあり方とどう関わっていくのか、などが問われている。本分科会では、そういった公共事業の今後のあり方と連係する景観・デザインの動向と課題を抽出する。
 3.第2分科会(分科会委員長:増田昇・大阪府立大学大学院教授)
  テーマ: 自然共生と景観・デザイン
  内容: 自然空間における土木事業では、自然環境への負荷の低減や自然環境の保全対策は不可欠な要件となりつつある。このような状況の中で、自然再生法が公布・施行され、自然環境の保全・再生は地域環境の管理主体となる地域の各種団体との協働によって実行されることが謳われている。本分科会では、自然保護団体との合意形成や地域の環境団体との協働体制づくりを前提とした土木事業の景観業務の動向について課題を抽出する。
 4.第3分科会(分科会委員長:山崎正史・立命館大学教授)
  テーマ: 景観法にともなう景観行政・景観業務の新動向
  内容: 景観緑三法の法整備が実施され、景観行政が大きく変わろうとしています。しかし、実際の景観行政は地方自治体に委ねられることになります。各自治体では、財政問題、市町村合併、既存の景観条例との関連付け等の課題を抱えています。このような状況の中で、コンサルタントへの景観業務の依頼、あるいはコンサルタント側からの発注者への提案等に備える必要があります。

 研究活動の中で特筆すべきは、2005年9月6日の第38回(平成17年度)研究発表会における特別講演会(シンポジウム)でした。「“景観新時代”を迎えて−景観緑三法が変えるコンサルティング業務−」を全体テーマとして、第I部では、特別講演を「“景観新時代”の動向」と題して以下のように予定しました。
 1.「“景観新時代”の土木」(講師:榊原和彦、大阪産業大学教授)
 2.「“景観新時代”と自然共生」(講師:増田昇、大阪府立大学大学院教授)
 3.「景観計画と観光振興」(講師:山崎正史、立命館大学教授、但し都合により中止)
 第II部パネルディスカッションは、「“景観新時代”とコンサルティング業務−景観緑三法を巡る動向」という題目で、鳴海邦碩大阪大学大学院教授(日本都市計画学会会長)に話題提供をいただき、コーディネータ;榊原和彦、パネリスト;鳴海教授、増田教授、北野俊介氏(協和設計株式会社)というメンバーでパネルディスカッションを行いました。
 この特別講演・パネルディスカッションの背景には、各テーマからもわかるように、「美しい国づくり政策大綱」発表、「景観緑三法」成立・施行以来、大きく変わろうとしている公共事業に関わる景観づくりや景観行政の動向があります。これらを踏まえると、今、私達は“景観新時代”を迎えたものと考えることができますが、その中で今後、建設コンサルタントにとっては景観に関わるコンサルティング業務が増加することが予想されます。自治体等に対して積極的にアプローチするなど、新しいビジネス・チャンスが生まれつつあると捉えることもでき、建設コンサルタントは、景観についての理解を深め、技術力を高めていくことが必要です。ところが、近年の状況を見ると、発注者側の財政難やコスト重視などの社会情勢の変化による景観関連の委託業務の減少のせいか、コンサルタント各社の景観技術力向上への意欲に減退傾向が感じられます。そこで、景観を巡る状況が大きく変わりつつあることを知らしめ、景観業務への適切な対応の必要性を訴えることにしたのです。このような啓発を行うことは、本委員会が負託されている使命に沿うことと言えましょう。

 本報告書は、以上の経緯の中でなされた研究の成果をとりまとめると共に、トーク・ディスカッションの記録を掲載するものです。
 分科会のご指導をいただいた増田昇大阪府立大学大学院教授、山崎正史立命館大学教授、トーク・ディスカッションにご協力を賜った講師の方々には、心より感謝を申し上げます。また、本研究委員会を支えていただいた(社)建設コンサルタンツ協会近畿支部、参加いただいた委員各位、委員を派遣していただいた会社、調査・研究に五経量をたまわった方々に、深甚なる謝意を表します。そして、今後、この委員会の成果・課題を引き継ぐかたちで本年4月に発足し、活動する新たな景観デザイン手法研究委員会に対しても、変わらぬご支援を賜るようお願い申し上げます。

平成18年7月
景観デザイン手法研究委員会
委員長 榊原和彦

委員名簿

No. 氏名 所属
1 榊原 和彦 大阪産業大学 工学部 環境デザイン学科
2 増田 昇 大阪府立大学 大学院 生命環境科学研究科
3 山崎 正史 立命館大学 理工学部 建築都市デザイン学科
4 富安 浩 (株)オリエンタルコンサルタンツ 関西支社 都市・交通G
5 北野 俊介 協和設計(株) 設計部
6 奥田 勝正 近畿技術コンサルタンツ(株) 河川環境部 第1課
7 角尾 雅仁 (株)近代設計 大阪支社 道路橋梁部
8 北洞 鋼一 国際航業(株) 国土空間サービス事業本部 関西CM部
9 河本 一典 (株)修成建設コンサルタント 総合計画部 企画調査課
10 小谷 恭子 (株)綜合技術コンサルタント 大阪支社 環境技術部 環境計画課
11 大東 勝浩 大日本コンサルタント(株) 大阪支社 構造技術部 構造計画室
12 寒竹 英貴 中央復建コンサルタンツ(株) 道路・トンネル系グループ
13 山根 幸雄 (株)トーニチコンサルタント 西日本支社 計画調査部
14 鳴海 祐幸 (株)日建設計シビル 大阪事務所 都市基盤設計部
15 山田 幸一郎 いであ(株) 陸圏グループ
16 堀内 康介 (株)ニュージェック 都市地域整備部