資料No.

517-11

報告書タイトル

多自然型水辺整備の各段階における課題と対応策に関する調査研究 〜生きものの活きる川づくり〜

委員会名

多自然型水辺整備研究委員会

委員長名

禰津家久(京都大学 大学院工学研究科 環境地球工学専攻)

活動期間

平成11年4月〜平成13年3月

発行年

平成13年8月1日

報告書目次

第一編 調査分科会

1. はじめに
2. 河川を取り巻く環境意識の向上
2.1環境意識の高まり
2.2今後の河川環境について
2.3河川法の改正
3. 「多自然型川づくり」の経緯
3.1自然に配慮した川づくりの取り組み
3.2近自然河川工法の導入
3.3多自然型川づくり事業の推進
3.4多自然型川づくりの変遷
4. 今後の「多自然型川づくり」における課題
5. 多自然型水辺整備に関する意識調査
5.1調査の概要
5.2基本的な河川環境の構成要素に関する意識調査
5.3「多自然型川づくり」に関する意識調査
5.4川づくりへの住民参加に関する意識調査
6. 今後の多自然型水辺整備の方向性・提言
6.1各分野の意識調査結果
6.2多自然型水辺整備の方向性・提言

第二編 計画分科会

1. はじめに
2. 多自然型川づくりの流れ
  2.1川づくりの考え方
  2.2川の見方(基礎調査の見方)
  2.3様々な機能からみた川づくりの考え方
3. 生態への配慮事項の検討
  3.1検討対象の設定
  3.2代表種の設定
  3.3代表種を対象とした生息必要条件の検討
  3.4代表的河川場面における生物必要環境
3.4.1 中上流河川
3.4.2 中下流域
3.4.3 里山河川A
3.4.4 里山河川B
4. 生態系に配慮した河道計画
  4.1生態系に配慮した河道計画の留意事項
4.1.1 川のかたち
4.1.2 河道の平面形状(川の蛇行)
4.1.3 河道の縦断形状
4.1.4 河道の横断形状
  4.2生態系に配慮した施設計画
4.2.1 ゾーニング
4.2.2 施設計画区分
4.2.3 施設計画例
  4.3河道の安定性評価
4.3.1 流下能力
4.3.2 河床の安定
4.3.3 構造物(水制工)周辺の流れ
5. 住民参加
5.1アンケート集計結果の整理
5.2アンケート結果の整理および考察
5.3アンケート結果からみた住民参加の川づくりの方向性
6.結語

第三編 設計分科会

1. はじめに
2. 文献整理
2.1文献一覧表
2.2検索マニュアル
3. 工法別調査票
3.1多自然型川づくりの工法一覧表
3.2各工法別調査票
4. ケーススタディー
4.1模型基本条件
4.1.1 多自然型川づくりと模型の活用
4.1.2 模型の種類と制作目的
4.1.3 縮尺の設定と表現内容
4.1.4 河道の条件
4.1.5 河川工作物の整備内容
4.2構造物の安定検討
4.3模型作成写真
4.3.1 模型作成過程
4.3.2 模型作成写真
  4.4模型づくりの苦労話
5. 現地視察
6. 今後の課題
6.1文献調査
6.2工法調査票作成
6.3模型製作
6.4現地視察
6.5全体を通じて
7. おわりに

第四編 施工分科会(多自然型水辺整備の施工と維持管理)

1. はじめに
2. よりよい水辺整備に配慮した施工
2.1水辺整備の施工における現状と課題
2.2よりよい水辺整備を行うための施工の留意点
2.2.1 設計段階における留意点
2.2.2 発注段階における留意点
2.2.3 施工段階における留意点
2.3施工要領の事例
2.4施工方法の種類と概要
2.4.1 施工方法の種類
2.4.2 各施工方法の概要
2.4.3 施工法採用にあたっての留意点
  2.5今後の課題
3. 生態系への影響を最小限に留めるための施工
3.1水辺整備の施工についての現状と課題
3.1.1 施工上の問題点と課題
3.1.2 完成後の管理上の問題点と課題
3.2施工時に生態系への影響を最小限に留めるための方策の考え方
3.2.1 施工段階におけるミティゲーション
3.2.2 従来工法における生態系への影響
3.2.3 ミティゲーションの必要性
3.2.4 生態系に配慮した水辺整備のプロセス
3.3ビオトープへの影響をより少なくするための具体的方策
3.3.1 対象動植物の抽出
3.3.2 施工時期の設定
3.3.3 施工方法の検討
3.3.4 土壌養生方法の検討
3.3.5 ミティゲーション整備事例
3.4今後の課題
4. よりよい水辺環境の保全対策
  4.1現状と課題
4.1.1 整備された河川の現状
4.1.2 課題および保全技術の実態
4.2保全のあり方
 4.2.1 整備後のモニタリング手法
4.3保全対策のあり方
4.3.1 保全対策に関わる具体的な配慮事項・工夫
4.3.2 整備後のモニタリング
4.3.3 水域浄化のエンジニアリング
4.3.4 緑化
4.3.5 天然素材によるエージング(景観への調和)技術
4.3.6 生物・地域対応護岸材−エコロパネル
4.3.7 干潟カニの人工増殖技術
4.3.8 金属片を使った二枚貝の標識技術
  4.4今後の課題
5. 維持管理活動のあり方
5.1現状と課題
5.2維持管理のあり方
5.2.1 維持管理の方向性について
5.2.2 維持管理システムについて
5.3今後の課題
5.3.1 全般の課題及び問題点
5.3.2 子供教育のための水辺のビオトープの課題
5.3.3 計画・設計・施工時点での課題及び問題点
6. むすび

報告書全体概要

 国家百年の計といわれ、現在、21世紀におけるグランドデザインの策定が緊急課題になっている。20世紀の治水・利水・環境等の水問題の国家百年はどうであったのか。これをレビューすることは、21世紀のグランドデザインの策定に不可欠な知見を与える。日本の近代的な治水事業は、約百年前の1896年(明治29年)の河川法の公布とともに新淀川の開削工事によって着手された。もちろんそれ以前の、幕末から明治維新に至る時代の激変・動乱期に国土は極度に荒涼化し、水災害は多発した。このため、新政府は、即戦力を求めてオランダから技術者を雇い、河川改修の調査・計画に当たらせた。その中心となったのがデレーケで、1873(明治6)年に来日し、30年間の長きにわたり河川行政を陰に陽に指導し、淀川・木曽三川等に現在でもその足跡が見られる。
 水理学・河川工学の学問から治水問題に正攻法で取り組んだのは、西欧留学の若き日本人技術者達であり、とくに当時水理学の中心であったフランス留学から帰国した古市公威の働きは大きい。河川法の公布あたりからであろう。近代治水の黎明期と言える。この時期に壮大な河川改修計画が立案され、それが大正から昭和初期にかけて着工・完成された。例えば、青山士による信濃川・大河津分水路工事が挙げられる。1931(昭和6)年に完成し、新潟平野を水害から守り、日本の穀倉地としたのである。このように次第に国力・防災力がついてきたが、1945(昭和20)年に敗戦を迎え、国土は再び荒涼化したのである。台風が襲来し、防災力が低下した国土に未曾有な水災害をもたらした。例えば、1945年の枕崎台風(死者行方不明者3756人)、1947年のカスリン台風(利根川関東大水害:死者行方不明者1910人)、1948年のアイオン台風(東北地方大水害:死者行方不明者838人)、1950年ジェーン台風(関西大水害:死者行方不明者539人)と続いた。このため戦後の国土復興は治水が第一義と言ってもよい。
 昭和30年代~40年代の約20年間は、戦後の復興から高度経済成長期に至る時期で、土木の黄金時代と言えるかも知れない。治水・利水・電力需要のために各地に多目的ダムが建設された。現在「ダム不要論」もマスコミにあるが、このような他目的ダムが建設されなかったならば、日本の現在の発展、経済成長はなかった事に異をはし挟む方はないであろう。戦後の土木技術の大きな特徴は、大型機械施工化とそれを可能にしたコンクリート施工技術と考えられる。各種のインフラ整備にコンクリートは不可欠な部材であり、マニュアルに基づいて効率的に短期間で安全に施工することが社会的に要求された。土木技術者はこの要求に従って研究・改良し、今日の社会資本の基礎を築いた。例えば、河川工法は、コンクリートの三面張り河道に代表されるように洪水をできるだけ早く流下させることに主眼をおき、流れの抵抗軽減のために蛇行河川を直線化し、河積を増やすために複断面を単断面化に拡幅し、また床止め・段落ちを設置して河床を安定化させたのである。水理学の学理からいえば妥当な工法であった。しかし、自然をこのように人間に都合のよいように改変したことに大きな副作用がその後露呈したのである。すなわち、自然環境破壊の側面があったのである。人間・動植物を含めた生態系にとって、三面張り河川工法は決して好ましくないことがその後わかったのである。
 この状況は外国でも同じであり、特に敗戦国のドイツでは深刻であった。台風などの甚大な水水害はないが、地上戦のあったドイツの国土荒涼化は日本以上であり、戦後の復興は効率化のコンセプトのもと、河川の直線化・コンクリート化が急速に行われた。しかし国民に心の余裕が出てくると、このような自然を無視した効率的河川工法に異を挟む運動が出てきた。「緑の党」もその1つであろう。1970年代のことである。ゲルマン民族はワンダーフォーゲルが好きで、自然河川への憧れが強い。Naturnaher Wasserbau直訳すれば、近自然河川工法がドイツまたスイスで生まれたのである。人工的に直線化した河道を元の蛇行河川に戻したり、コンクリートの河道を自然素材の石や木材などで改築した。経験的な職人技が要求されたが、社会に受け入れられ、例えばアーヘン工科大学ではこの水理学的な妥当性を鋭意検討する研究も行われている。
 平成元年(1989年)は、地球環境元年と言われる。異常気象がマスコミでも大きく取り上げられ、翌90年にはリオデジャネイロで地球環境サミットが開催された。地球環境問題は土木界でも無縁ではなく、実際に1990年に「地球環境とシビルエンジニア」と題する116ページに及ぶ土木学会誌別冊増刊号が刊行されている。環境への社会的ニーズは水域環境にも向けられた。これは、三面張り河川工法からの脱却であった。建設省の関正和博士が中心になり、ドイツの近自然河川工法を参考にして、「多自然型川づくり」が平成2年からパイロット的に施工されるようになった。多自然型川づくりは、一般社会でも好意的に受け入れられ、このため平成9年(1997)には河川法が改正され、「河川環境の整備と保全」が法体系化された。治水・利水などの河川事業には、河川環境の整備・保全も不可欠になったのである。
 このように「多自然型川づくり」、広義では「多自然型水辺整備」は、ここ10年間でパイロット的に試行され、市民権を得つつある工法である。各種の行政機関、研究機関また大学でも調査研究が精力的に行われているが、まだ日が浅いだけにその概念や施工コンセプトが必ずしも十分ではなく、「多自然型河川」や「親水性水辺空間」などの言葉が一人歩きしている側面も否めない。この90年代の日本は、政治経済の失われた10年と言われ、無力感があるが、河川環境に関しては収穫のあった10年と言えるのではないだろうか。
 以上のことを鑑みて、この10年間の多自然型水辺整備に関する調査研究を行い、さらに21世紀における水辺整備に関して提言を行う目的で、本委員会が設置された。36名の委員が有機的に活動できるように、@調査分科会、A計画分科会、B設計分科会、C施工分科会の4つの分科会で調査研究を行い、全体会議で何度もすり合わせを行った。したがって、本報告書は、各分科会の成果を編としてまとめているが、全体的に整合性があるように編集・工夫されている。本委員会は、わずか2年間の活動であり、やり残した課題も多いが、本報告書が多自然型水辺整備に関して何らかの参考になれば、幸いである。
 最後に、委員各位が本業の仕事の合間にこのようなハードな調査研究をされたことに敬意を表したい。また、本委員会独自で行ったアンケート調査にご協力頂いた関係者にお礼を申し上げます。

平成13年3月
 多自然型水辺整備研究委員会
  委員長 禰津 家久

委員名簿

No.

所属名

氏名

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36

京都大学 大学院工学研究科 環境地球工学専攻

京都大学 防災研究所 附属巨大災害研究センター

大阪市立大学 工学部 土木工学科

摂南大学 工学部 土木工学科

(株)ウエスコ 兵庫支社 技術部

(株)エース

応用地質(株) 西日本技術課センター 関西支社

(株) オリエンタルコンサルタンツ 関西支社

鹿島建設(株) 関西支店 土木部

協和設計(株) 神戸支店

近畿技術コンサルタンツ(株) 技術部

(株)建設技術研究所 大阪支社 環境部

(株)建設技術研究所 大阪支社 技術第三部

(株)建設技術研究所 大阪支社 技術第三部

サンコーコンサルタント(株) 大阪支店

システム環境計画コンサルタント(株) 技術部

清水建設(株) 大阪支店 土木技術部

(株)修成建設コンサルタント 水工部

大成建設(株) 関西支店 営業部

玉野総合コンサルタント(株) 大阪支店 設計部

中央復建コンサルタンツ(株) 総合1部

(株)東京建設コンサルタント 関西支店

内外エンジニアリング(株) 大阪支社 技術部

(株)日建設計 土木事務所 環境計画部

(株)日水コン 大阪支所 河川事業部

日本技術開発(株) 大阪支社 水工部

日本建設コンサルタント(株) 大阪支社

日本建設コンサルタント(株) 大阪支社

(株)日本港湾コンサルタント 神戸事務所

(株)ニュージェック 河川・海岸部 河川室

(株)ニュージェック 河川・海岸部 海岸室

パシフィックコンサルタンツ(株) 神戸支社

復建調査設計(株) 大阪支社 第2設計課

(株)ホクコン 技術開発チーム

三井共同建設コンサルタント(株) 関西支社

八千代エンジニヤリング(株) 大阪支店

禰津 家久

河田 恵昭

角野 昇八

澤井 健二

高橋 邦治

高嶋 雅裕

堂元 史博

坂本 明

吉田 潔

稲岡 英樹

大塚 雅章

北澤 聖司

佐藤 雅洋

吉田 千夏

菊川 隆幸

佐竹 康孝

山見 晴三

新橋 美佐子

中村 秀一

田中 賢治

村上 斉

古田 真二

織田 篤則

斎藤 貴裕

山本 誠二

平野 寿謙

川津 幸治

木下 智司

北浦 胤亮

中西 太

山下 剛史

松田 尚郎

浅間 忠明

北川 正弘

中條 優

加藤 英樹