近年の豪雨災害の発生に伴い、河川堤防に対する質的な評価および評価に伴う強化対策が急務となっている。この質的評価にあたっては、河川堤防関連指針1)2)に準じて全国で実施されており、特に浸透に対する安全性検討が着目されている。浸透に対する安全性検討は、洪水時のすべり破壊に対する安全性と基礎地盤のパイピング破壊に対する安全性を照査項目とすることから、浸透に対する安全性検討を行うにあたっては、地盤の透水特性、せん断強度の把握が重要となってくる。 そこで、本論文では@不飽和地盤を対象とした現場透水試験、A中間土における三軸圧縮試験条件の適用性、B効率的な調査計画立案に着目し、総合的な質的評価手法の研究を行い、今後の質的評価手法への適用を提案した。
近年、局所的な集中豪雨による水害や土砂災害が頻発していることから、災害に対する基礎データとして、航空レーザーデータの活用が多く見られるようになった。とくに、全国地方整備局管内の一級河川について、河川の安全度を水系一貫で評価することが求められているため、広範囲に高密度かつ高精度な地盤データ(以下DTM)を迅速に取得することが、レーザー解析技術者の命題であると認識している。 そこで本論文では、一級河川の地盤データ取得に際し、広範囲のレーザーデータから効率的にDTMを抽出する手法を紹介する。
平成16年7月に発生した福井豪雨による再度災害防止のため、福井豪雨発生時の足羽川における水位上昇や流況を再現し、流下能力確保のほか河川平面形の改良を含めた今後の改修対策を提案した。 福井豪雨により、約900mに渡る区間で越流が確認され、その区間のうち1箇所にて破堤が発生した。これは足羽川の水位が上昇したためであるが、その要因は河積不足のほか橋梁等の河川構造物による影響が考えられた。そこで、福井豪雨による足羽川の水位や流速といった流況を再現し、越流や破堤に至った要因を分析した。 その結果、足羽川では河川構造物などによる影響がなかったとしても越流が生じるまで水位上昇していたであろうことを明らかにした。また、破堤地点付近の最大流速は非常に大きくなるものの水衝部は破堤地点よりも下流で、破堤地点の流速は非常に小さく水位が局所的に高くなっていたことを明らかにした。 流況再現結果を踏まえて、足羽川における再度災害防止の観点から、河積拡大のほか低水路法線の改良案を検討し、水位および流速の低減による流況改善効果があることを確認した。
寝屋川南部地下河川は、大阪府の淀川と大和川に挟まれた浸水常襲地域の浸水被害を軽減するために計画される大規模地下河川である。施設の概要は、確率年W=1/40、計画流量180m3/s、地下約15〜30m、延長約13km、管内径約7〜10mであり、流域の雨水を地下河川に取り込みつつ、地下河川下端に設置されるポンプより木津川河口部へと揚水放流する。本論文は、寝屋川南部地下河川及びこれに接続する増補幹線を対象として、管内空気の圧縮を考慮した二相流による1次元不定流解析モデルを構築し、空気挙動が水理挙動に及ぼす影響を把握した。また、管内の空気の排出に着目し、施設の安全な運用を目的として、所定の風速及び管内空気圧を満足するような空気抜き口の大きさについて検討を行った。
河川や湖沼の氾濫に伴う浸水戸数は、その評価手法により差異が生じる。本論では、琵琶湖周辺の家屋を対象に、「机上による浸水戸数調査」と「現地調査による浸水戸数調査」の結果をもとに浸水深と浸水戸数の関係をモデル化し、想定外力に対する浸水戸数算定の最適化を行った。以下に本論で得られた知見を示す。 ・【机上による浸水戸数】は家屋の嵩上げが考慮されておらず、「現地調査による浸水戸数」と比較して同じ浸水深に対しての浸水戸数が多く見積もられる傾向にあった。 ・本論によって得られた浸水戸数評価モデルは机上のみならず現地調査結果による補正を加えていることが重要であり、モデル作成にあたっての大きな根拠となっている。
町内にため池を89箇所保有する全国有数のため池密集地域である稲美町において、ため池の堤防が決壊した場合における氾濫流量ハイドロを簡易的に算定し、2次元不定流モデルを用いて解析した。その結果、既往浸水被害を概ね再現することが出来た。また、氾濫解析結果を用いて、浸水ハザードマップを作成するとともに、要避難者の想定および避難所・避難経路の検討を字界ごとに行ったところ、近い避難所が氾濫流の主流路の対岸にある区域が多く存在することがわかった。 今後は、具体的な破堤の要因を個々のため池に対して考慮して氾濫流量ハイドロを算定するとともに、より細密な地盤高を設定して、水路等を組み込んだ氾濫解析をおこなうことが必要であると考えられる。また、今回ため池ごとに氾濫解析を行っているため,特定のため池の破堤が予想される場合、浸水予想区域内の住民の避難誘導に活用できることから、町全体でより具体的な避難誘導計画を策定し、地域防災計画の見直しに役立てることが重要であると考えられる。
本論文は、平成16年8月に来襲した台風0416号によって、香川県沿岸一帯で発生した高潮浸水被害に対して、その浸水原因の調査・究明を行い、その対策をハード面、ソフト面において検討し、また、今後の具体的な行動計画を示すアクションプログラムの策定を検討したものである。対策を立案するにあたって、ハード面では、海岸保全の観点から、設計高潮位の見直し、海岸保全施設整備の基本方針の立案を行い、ソフト面では、防災まちづくりの観点から、高潮対策基礎情報図の作成、防災まちづくりの基本方針の立案を行った。アクションプログラムの策定にあたっては、今後30年間に、効果的にかつ効率的に整備を進めるために、天端高および背後地の重要度からなる2つの整備優先度指標を設定し、整備優先度の高い施設から順にT期(おおむね10年)、U・V期(20〜30年)に設定し、津波・高潮対策整備推進アクションプログラムを策定した。
本論文は、河川整備における計画・設計の基本方針を決定するための住民の意見を反映したプロセスの一事例における課題を整理したものである。検討対象は、大阪府貝塚市に位置する二級河川近木川の汽水ワンド(潟湖干潟)整備の計画から実施設計までの取組みであり、平成15年から平成17年にかけて計画から実施設計までの基本方針を決定するために住民意見を集約するための一手法であるワークショップを計5回実施した。ワークショップの主要なテーマは、「近木川に対する思いについて」、「整備への期待、これから検討したいことについて」、「施設の利用・環境について」、「施設に必要とされる機能について」、「施設の細部構造について」であり、詳細設計の設計方針にワークショップでの意見を反映した。また、アンケート調査とワークショップを行うことで意見収集を徹底し、かつ、ワークショップ以外では、地域の小中学校や地元住民に対してアンケートを実施した。ここに、ワーキング等の住民意見集約の課題について、事例から考察をくわえるものとする。